カテゴリ:未分類( 94 )

しない>翌日

「おはようたっくん!今日もいい天気だ」

「そのたっくんって言うの、恥ずかしいからやめてくれないかな……」

「お前、人をおばさん呼ばわりしておいてその言い草か」

翌朝、何事もなかったかのように叔母は明るい。
僕もほっとしていた。

旅館で朝ごはんを食べ、僕らは両親が会社に出た時間を見計らって家に戻ることにした。
どうせ怒られるなら、一日ゆっくり沢田変死の検証のため使いたかったからだ。


>>検証する
[PR]
by sillin | 2005-07-04 22:03

もう一度浜辺へ行く>浜へ出る>協力する(山のお堂を見た)>車へ

やたらと狭いスポーツカーの後部座席へ身を縮こまらせ、僕は納得のいかない表情で助手席を眺めていた。
官能的なまでに美しい黒髪の持ち主が座っている。
神さまが車で移動してるなんて、あまり信じたい出来事じゃない。
本人はまっすぐ前を向いたままポーカーフェイスで、どう考えているのかわからない。

「人ひとり、猫一匹、カラス一羽おらず、信号機は色を失い――」

叔母がハンドルを切りながら歌うように言った。
霞と居る間、世界は音と生命をなくすようだった。

「私は別の世界へ入っているんじゃないかと思っている。霞が見える間はな。限りなく現世に近いパラドックス――私は根の国と名づけた」

「根の国って、どう言う意味?」

「黄泉は知ってるだろ。死者の国。あれと同じように地下にあると言う別世界だ。穢れの流れ着く地と表現されながら、柳田国男なんかは根をニライと同義として、生命の根源の地であると言う説を出してる。ま、はっきりしないんだ」

日本の神話から取ったのだろう。興味のない僕にはさっぱりわからない。
そこにおわす神さま本人がいらっしゃるのだから、聞けばいいじゃないか。
僕が実際そう聞こうとする前に、霞は言った。

「私にもわからないの」

その時、車は止まった。徹郎の家の近くだ。
助手席からドアを開けて外へ出る姿を見て、僕は場違いなドライブに付き合ったんじゃないかと言う錯覚を覚えた。

「……昔と変わず綺麗だな、霞は」

「いいものじゃないわ。変わらないもの以外は、剥がれ落ちるように私から欠落していく。想い出もいつかは……」

若干うらやましそうな叔母の言葉に、霞は伏目がちに答えた。

「だから、次の人間を根の国へ誘うのか」

「……だと思う。かみ、と言うものは結局、運命とかエネルギーとかそういう目に見えない塊で、人を依り代にしないと神として存在できないものだと……」

「叔母さん!」

路上へ陽炎のようにショートカットの少女が現れていた。
僕は霞が倒してくれなかったシートをずらしながら、なんとか車内から抜け出した。


>>次へ
[PR]
by sillin | 2005-07-04 21:01

もう一度浜辺へ行く>浜へ出る>協力する(山のお堂を見た)

「もちろん協力するよな、たっくん」

凛とした声が言った。いつのまにか如月叔母が浜辺の道に立っていた。

「叔母さん、どうしてここへ」

「あなたは……」

僕と霞の声が重なる。
その先で、叔母はかけていたサングラスをはずし、咥えタバコをくゆらせながら言った。

「霞、久しぶりだな。私にもあなたの姿が見えると言うことは、十年前の始末をつけさせてくれるってことだろ?」

「私には……そんなつもりは……」

霞の目はわずかに泳いでいる。
神さまにも動揺や予期せぬことがあるのだ。

「あなたになくても私にはあるんだ。十年前、絵里と約束した。必ずいつか、封じてやるって」

如月叔母の目は真剣だった。
霞は口元をぎゅっと結ぶと、うなずいた。

「わかりました。……琢馬君」

今まで見た中で一番厳しい表情をした霞は、僕に深い黒の瞳をあてる。

「徹郎君が大禍山津見神に操られている。あなたもかつての如月さんのように、親友のため命を懸けられるかしら」

「やるよ」

叔母は僕のあこがれだった。その叔母と同じ立場に立ったのだ。答えは一つだった。
もう一度霞はうなずく。黒髪が光の輪を波打たせてさざめいた。

「車はあっちだよ」

叔母はそう言って、少し霞を見つめた。
神さまが車に乗るのかと考えているらしい。


>>車へ
[PR]
by sillin | 2005-07-04 16:16

徹郎の家>次へ(徹郎とここへきた)

「徹郎……」

僕はまだ理解できない。
目の前の少女は確かに徹郎とよく似ていた。
ひたすらに怖い。震える声で後ろの徹郎に話しかける。

「なあ、姉さんが失踪したなんて嘘っぱちじゃないか。なあ?」

「姉ちゃんは戻ってきたんだ。そのままの姿でな。もう俺は離さない。姉ちゃんを奪おうとする奴は全部――」

何を言ってるんだ。
誰も、特に僕なんか徹郎から姉を奪おうなんて思っていない。
二人で幸せに暮らしたらいいじゃないか。
僕のいないところでそうしてくれ。

びゅっと空気を裂いて、ショートカットの少女の腕が縦に振られた。
蛍光灯の明かりが壁に刻み付けるその影は、巨大な鉤爪を生やしている。
その鉤爪が僕の影に沈みこみ――僕の腹部は気味の悪い音と衝撃を発した。

「全部食われるんだ!あははははは!」

徹郎の笑い声は正気の沙汰じゃない。
逃げないと。
僕はようやくその考えに至って、一歩進もうとした。

ずるり。

鳥肌の立つような感覚が、僕に下を向かせた。
落雷を受けた木のように切り裂かれた僕の服は、血みどろに染まっている。
その下に、見たことも無い脂ぎった白いものが蠢いて、床へ垂れ下がろうとしていた。
思わず手を触れる。
驚くほど熱くて太い、これは僕の……腸だ。内臓だ。

「――――!!」

絶叫は声にならない。
息も出来ない。
どうしよう。逃げなければ。
入り口の隣に大きな姿見があった。
自分の足で立っていると思い込んでいた僕は、徹郎に羽交い絞めにされてぶら下がっているだけだと知る。
鏡に映った僕の眼は、まるで死んだ魚のようだ。

「姉ちゃん、こいつの生き胆はうまいぞ」

狂ってる。どいつもこいつも。
徹郎もこの女も僕も世界中のみんなイカれてる。

僕の前に跪いた少女が、僕の内臓へ顔を突っ込んだ。
むしゃむしゃと言う音が聞こえてきても、僕はだらしなく口を開いたままだった。


――絵里・大禍山津見神・エンド2

>>スタートへ
[PR]
by sillin | 2005-07-04 11:49

もう一度浜辺へ行く>浜へ出る>協力する>次へ>従う

敵の懐の中で、無力な僕が何を出来ると言うんだ。
僕は何も言わず、うなずいた。

「そう。それでいいの。あんたも死にたくはないでしょ?」

簡単に僕を殺せるということだろう。不思議と恐怖はわかなかった。
それどころか、負け惜しみを言う気概も残っていた。

「いつか取り戻してみせるよ。絵里さん、如月叔母さんが戦ったように、僕も戦うんだから」

如月、と言う名前が出た瞬間、絵里の表情が強張った。
すぐにそれは物悲しげなものにかわる。

「うん。ま、がんばりなよ」

よくわからない返事をして、絵里は僕から視線をはずした。
僕は疑問を感じた。

「……絵里さん、あなたもひょっとしたら、悲しいんじゃないの?」

「わからないよ!そんなの!」

突然激昂して、絵里は座卓をどんと叩いた。コップが飛び上がる。

「私はただ、摂理に従って――私、ただ」

「無理しないでいいよ。悲しいことを悲しいって思っちゃいけないなんてことはない」

「うう。徹郎……如月……」

腕の中に突っ伏して、絵里は泣き崩れた。
震える肩を、僕は長いことじっと見ていた。

嗚咽が静まり返り、寝てしまったのかと僕が思ったとき、くぐもった声で絵里が言った。

「不思議な人だね、君は」

「ん?僕?」

「如月に似ているよ。……もう、帰って」

「……うん」

「如月によろしくね。あたしも――元気だから」

「うん」

僕が立ち上がり、ふすまを開けても、絵里は突っ伏したままだった。
座敷を後にして玄関を降りる。
徹郎の家を出た瞬間、世界は音を取り戻した。
この世がいかに喧騒に満ちているか思い出し、僕はしばし立ち止まった後、歩き始めた。

-------

あれから霞と絵里を見ることはなかった。
鬼の噂も潮が引くように消え、学校は退屈な日常を動かすようになった。
叔母とは長い間会えず、そのうちに僕の身に起きた出来事を話すべきか、判断がつかなくなってしまった。
おそらくこれでいいのだろう。
僕が事件を通して理解できたことは、あまりに少ないけれど――。


――絵里・大直日綿津海神・エンド1


>>スタートへ
[PR]
by sillin | 2005-07-03 22:21

もう一度浜辺へ行く>浜へ出る>協力する>次へ>たて突く

「不愉快ね」

絵里の視線がぎゅっと鋭くなる。
ガタガタとふすまが鳴り、部屋の明かりは古いテレビのような色になって、僕の周りが歪んだ。

「お前も食ってやる」

立ち上がる暇はなかった。
伸ばした絵里の手は、不気味な黒い鉤爪のシルエットを座卓へ刻み込んで、届くはずのない僕の喉笛を切り裂いた。

僕はのけぞりながら、冗談のような赤いしぶきが散るのを瞬時眺め、すぐに死んだ。


――絵里・大禍山津見神・エンド

>>スタートへ
[PR]
by sillin | 2005-07-03 22:15

もう一度浜辺へ行く>浜へ出る>協力する>次へ

鳥居を抜けると、徹郎の家が目の前に立っていた。
便利なもんだ。後ろを振り向いても、坂道が続いているだけで鳥居なんかない。
どこに居ても目立つ黒髪を捜して僕は左右を見回した。

「霞は居ないよ」

知らない女性の声が言った。
僕は声の方――徹郎の家の玄関を見る。
ショートカットの女の子が、つまらなさそうな顔で立っていた。
おそるおそる尋ねる。

「あなたが、絵里さん?」

「そ。まあ、あがってよ」

そう言うと玄関から中へ引っ込んだ。
霞と会っている時と同じで、あたりには人の気配がなく、物音も一切しない。
僕は意を決して足を進めた。

徹郎の家は山の何割かを所有する、昔からの旧家だ。
当然庭や屋敷も立派で、その分古い。
玄関へ入っても案内はなかったので、僕は靴を脱いで上がりこむ。

「こっち」

座敷のあるほうからひょっこり顔を出して、絵里が手招きした。
ぎしぎし鳴る廊下を踏んで、僕は座敷のふすまを開ける。
座卓の上には麦茶のコップが二つ並んでいた。
一つは半分くらいに減っている。絵里が自分で飲んだのだろう。
僕は変な顔をする。

「どうしたの?座りなよ」

「うん……。霞さんはどこにいったんだろう」

「そんなの、違う場所へ比良坂をつないでやったに決まってるじゃない」

「比良坂?」

「あんたの通ってきた鳥居の道のこと。飲まないの?」

絵里の反対側へ座った僕は、押し出されたコップを受け取る。
味もよくわからないまま麦茶を一口飲んだ。

「今の因果律の流れじゃ、あんたたちにあたしを封じることなんて不可能だよ。それはいっとく」

絵里はよく動く瞳で僕を見ながら、座卓へひじを突いている。
多少日焼けした顔など、徹郎にそっくりだ。

「霞さんも、封じるのは難しいって言ってたよ。徹郎を助けに来たんだ」

言いながら、それも失敗していることに僕は気づいた。
戦う前からこれじゃ、どうしようもない。僕はやけくそだった。

「徹郎ねぇ。あいつのシスコンっぷりもすごいよ。おかげで簡単に因果を狂わせることができたけど。あんなに動かしやすい人間はほかにいないね」

「僕は」

「お・こ・と・わ・り。勘違いしないでよ。徹郎はあたしのものなんだから」

徹郎を助けることはできないのか。
霞の言葉が脳裏によみがえる。
如月叔母のように、僕は親友を助けるため、命を懸けることができるのか……。
だが、目の前の絵里を相手に、何ができるのだろう?


>>たて突く

>>従う
[PR]
by sillin | 2005-07-03 22:11

もう一度浜辺へ行く>浜へ出る>>協力する

「……ありがとう。ねぇ、琢馬君。あなたも如月さんのように、親友を助けるため命をかけられる?」

叔母の名前が出た。
叔母もこうやって戦ったんだ。
それがいかに偉大な決意だったか、同じ境遇へ身をおいて、初めて実感できた。

わかったことはもうひとつあった。

「わからない。でもそうしたいと思ってる。霞さん、徹郎が危ないんだね」

霞はうなずく。黒髪がさざめく。

「敵の協力者は、徹郎君なの。あの子の因果律はもうどうしようもないほど狂って――私が直接手を下すか、敵を封じる方法でしか直せない。そのために琢馬君の協力が欲しいわ」

「やるよ。僕に何ができるんだい」

「敵を封じるのは不可能かもしれない。せめて徹郎君だけでも助けましょう。ついてきて」

霞は歩き出し、浜をあがった。その姿は松林へ向かう。
僕は古ぼけた制服姿を追って、松林へ入った。

赤い鳥居が立っている。現実世界に、もちろんこんなものはない。

「鳥居は世界の境界。通り居るが訛って鳥居なのよ。さあ、門を通って」

霞が先に鳥居をくぐる。掻き消えるようにその姿が消えても、僕には何の驚きもない。
僕もその後へ続いた。


>>次へ
[PR]
by sillin | 2005-07-03 21:39

もう一度浜辺へ行く>浜へ出る>協力しない

「そう……。それなら、ここでのことは忘れたほうがいいわ。あなたが本来いるはずだったところへ戻してあげる……」

すっと手を取られた僕は、歩き出した霞についていく。
なんだか頭がぼうっとしてきた。
浜をあがって、松林へ。その隙間に赤い鳥居が見えた。

「願わくばあなたの運命が曲がりませんように」

祈るような霞の声とともに、僕は鳥居を抜けた。

------

「琢馬君。ぼーっとしてないで早く!」

加奈が覗き込むようにしながら言った。
立ったまま寝ていたのか?僕の脳みそは寝起きみたいな感じだった。

「えと……何してたんだっけ」

「もー。あたしんちに遊びにくるんでしょ!」

そうだった。僕は放課後、加奈とそんな約束をしたんだった。
照れ隠しに笑いながら、僕は再び歩き始めた。


>>加奈の家へ
[PR]
by sillin | 2005-07-03 21:28

もう一度浜辺へ行く>浜へ出る

波打ち際によく目立つ黒髪が水平線を眺めていた。
僕は声をかける。

「霞さん」

少女ははっとした様子で僕を振り返る。
驚かされてばかりの僕は少し気分がいい。

「どうして……私の名を」

「桐島先生に教えてもらったんだ」

「……そう。私にもまだ、現世とのつながりが微かにあるのね」

急に霞は泣きそうな顔をした。長いまつげが黒瞳の煌きを曇らせる。
僕は慌てた。

「ごめんなさい。……うれしかったの。桐島先生に色んなことを聞いた?」

「少しは。十年前のこととか……。でも君の口から直接聞きたくて」

霞は軽くうなずく。薄紅色の唇が、ぽつりぽつり語り始めた。

「沢田さんを招いたのは私。あの子は私の言うことをよく理解してくれて、協力してもくれたわ。でもそのせいで――食われてしまった」

「鬼に食われたんじゃなかったんだね」

「おにはおに。陰と書いておにと読むの。目に見えない魂や霊や――つまり私たちのような存在を指す総称なのよ。かみと言う言葉も本当はそう」

難しい話だ。首を傾げる僕に、霞は微笑を向けて続けた。

「この世の因果を曲げる存在が、力を増してきていた。向こうは協力者を得て、因果律だけでなく実際に災禍を撒き散らそうとしていた。私にも協力者が必要だったの。一人目は沢田さん、二人目は――琢馬君、あなた」

「…………」

「でも私は躊躇していたわ。今もしている。あなたには沢田さんのようなことになって欲しくない……だから、あなたが自分から私へ近づいてくるか、試したの」

「僕はしっかり、君の隣にいる」

「そうね。そうだわ」

霞は海のほうへ顔を向けた。
ちょっと綺麗過ぎるけど、いくら間近で眺めてもそこらにいる人間と変わりがない。
ふいに顔がこちらへ戻って、横顔を観察していた僕はちょっと焦った。

「気づいていないと思うけど、あなたの周りの運命は、すでに大きく歪み始めているの。敵――敵と言う表現がぴったりね。それは、あなたを邪魔者と感じている。このまま日常生活に戻っても、いずれ取り返しのつかない事故が起きるわ」

僕はぞっとした。
いつの間にかもう引き返せないところにいたなんて。
宇宙の翳りを集めて凝縮したような瞳が、僕をじっと見つめた。

「私に協力するか否か選んで。あなたにはまだ、選択できる道がいくつかある」


>>協力する

>>協力する(山のお堂を見た)

>>協力しない
[PR]
by sillin | 2005-07-03 21:18