もう一度浜辺へ行く>浜へ出る>協力する>次へ>従う

敵の懐の中で、無力な僕が何を出来ると言うんだ。
僕は何も言わず、うなずいた。

「そう。それでいいの。あんたも死にたくはないでしょ?」

簡単に僕を殺せるということだろう。不思議と恐怖はわかなかった。
それどころか、負け惜しみを言う気概も残っていた。

「いつか取り戻してみせるよ。絵里さん、如月叔母さんが戦ったように、僕も戦うんだから」

如月、と言う名前が出た瞬間、絵里の表情が強張った。
すぐにそれは物悲しげなものにかわる。

「うん。ま、がんばりなよ」

よくわからない返事をして、絵里は僕から視線をはずした。
僕は疑問を感じた。

「……絵里さん、あなたもひょっとしたら、悲しいんじゃないの?」

「わからないよ!そんなの!」

突然激昂して、絵里は座卓をどんと叩いた。コップが飛び上がる。

「私はただ、摂理に従って――私、ただ」

「無理しないでいいよ。悲しいことを悲しいって思っちゃいけないなんてことはない」

「うう。徹郎……如月……」

腕の中に突っ伏して、絵里は泣き崩れた。
震える肩を、僕は長いことじっと見ていた。

嗚咽が静まり返り、寝てしまったのかと僕が思ったとき、くぐもった声で絵里が言った。

「不思議な人だね、君は」

「ん?僕?」

「如月に似ているよ。……もう、帰って」

「……うん」

「如月によろしくね。あたしも――元気だから」

「うん」

僕が立ち上がり、ふすまを開けても、絵里は突っ伏したままだった。
座敷を後にして玄関を降りる。
徹郎の家を出た瞬間、世界は音を取り戻した。
この世がいかに喧騒に満ちているか思い出し、僕はしばし立ち止まった後、歩き始めた。

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あれから霞と絵里を見ることはなかった。
鬼の噂も潮が引くように消え、学校は退屈な日常を動かすようになった。
叔母とは長い間会えず、そのうちに僕の身に起きた出来事を話すべきか、判断がつかなくなってしまった。
おそらくこれでいいのだろう。
僕が事件を通して理解できたことは、あまりに少ないけれど――。


――絵里・大直日綿津海神・エンド1


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# by sillin | 2005-07-03 22:21