鳥居を抜けると、徹郎の家が目の前に立っていた。
便利なもんだ。後ろを振り向いても、坂道が続いているだけで鳥居なんかない。 どこに居ても目立つ黒髪を捜して僕は左右を見回した。 「霞は居ないよ」 知らない女性の声が言った。 僕は声の方――徹郎の家の玄関を見る。 ショートカットの女の子が、つまらなさそうな顔で立っていた。 おそるおそる尋ねる。 「あなたが、絵里さん?」 「そ。まあ、あがってよ」 そう言うと玄関から中へ引っ込んだ。 霞と会っている時と同じで、あたりには人の気配がなく、物音も一切しない。 僕は意を決して足を進めた。 徹郎の家は山の何割かを所有する、昔からの旧家だ。 当然庭や屋敷も立派で、その分古い。 玄関へ入っても案内はなかったので、僕は靴を脱いで上がりこむ。 「こっち」 座敷のあるほうからひょっこり顔を出して、絵里が手招きした。 ぎしぎし鳴る廊下を踏んで、僕は座敷のふすまを開ける。 座卓の上には麦茶のコップが二つ並んでいた。 一つは半分くらいに減っている。絵里が自分で飲んだのだろう。 僕は変な顔をする。 「どうしたの?座りなよ」 「うん……。霞さんはどこにいったんだろう」 「そんなの、違う場所へ比良坂をつないでやったに決まってるじゃない」 「比良坂?」 「あんたの通ってきた鳥居の道のこと。飲まないの?」 絵里の反対側へ座った僕は、押し出されたコップを受け取る。 味もよくわからないまま麦茶を一口飲んだ。 「今の因果律の流れじゃ、あんたたちにあたしを封じることなんて不可能だよ。それはいっとく」 絵里はよく動く瞳で僕を見ながら、座卓へひじを突いている。 多少日焼けした顔など、徹郎にそっくりだ。 「霞さんも、封じるのは難しいって言ってたよ。徹郎を助けに来たんだ」 言いながら、それも失敗していることに僕は気づいた。 戦う前からこれじゃ、どうしようもない。僕はやけくそだった。 「徹郎ねぇ。あいつのシスコンっぷりもすごいよ。おかげで簡単に因果を狂わせることができたけど。あんなに動かしやすい人間はほかにいないね」 「僕は」 「お・こ・と・わ・り。勘違いしないでよ。徹郎はあたしのものなんだから」 徹郎を助けることはできないのか。 霞の言葉が脳裏によみがえる。 如月叔母のように、僕は親友を助けるため、命を懸けることができるのか……。 だが、目の前の絵里を相手に、何ができるのだろう? >>たて突く >>従う #
by sillin
| 2005-07-03 22:11
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